2024/11/10-11
昨年お世話になった時、夕食で出されたきのこ汁がとても美味しかったので、きのこ汁を使ったお蕎麦を予約していたのだ。昨年よりも1ヶ月ほど遅い時期なのできのこの種類も増え、本当にきのこのフルコースとなっていた。
山形駅到着は11時半。レンタカーを借りてまず向かう先は、東根市にある「肉そば はくよう」だ。山形県は蕎麦が美味しいのをご存じの方も多いのだろう、今年7 月にリクルートが実施したアンケート「麺で連想する都道府県ランキング」では、山形県は6位にランクされている。
「肉そば」は山形市の北、河北町周辺でポピュラーな蕎麦。太目の蕎麦が鶏出汁の汁にひたり、鶏肉がトッピングされている。基本は冷たい汁に冷たい蕎麦だ。はくようは少々ひなびた場所にあるのだが人気のお店で、我々の訪問時も5組、20分ほどの待ち時間だった。
連れの2人が冷たい肉そばとゲソ天、当方は同じく肉そばにゲソ天丼をオーダー。ほどなくして膳が配される。ゲソ天もこの辺りの蕎麦屋では定番メニューで、皆さん頼む蕎麦は違えどゲソ天は必須、の様相だ。
肉そばは甘めの汁に透明な鶏油が浮かんでおり、一口すすれば鶏の風味が口いっぱいに広がる。蕎麦も歯応えよく、噛めば鼻腔に蕎麦の香りが漂う。旨い。薬味のネギも柔らかく甘く、汁にも肉にもマッチする。当方は汁こそ少し残したが、他の2人は汁まで完食。ゲソ天丼からはイカの香りが立ち上り、これも食欲を刺激する。これらを組み合わせても千円強、いつでも来れる近くの方がうらやましい。
肉そばを十分堪能した後は、ニッカウヰスキー宮城峡蒸留所へ向かう。山道を登り県境のトンネルを越えた先、紅葉の山々に囲まれ渓流沿いに建つレンガ色の建屋がそれだ。今年6月にニッカのもう一つの蒸留所である余市蒸留所も訪問したが、こちらが山懐にある分、自然と調和した上質なウィスキーを醸している雰囲気が伝わってくる。
余市と同じように40分ほどの見学ツアーを終え、試飲。スーパーニッカも旨いのだが、飲み比べるとやはりここで作られた「宮城峡」の方が香り高く飲みやすい。さらに有料で「鶴」(原酒不足で既に終売、蒸留所限定で試飲可)もテイスティングしたが、これはもうブランデーのよう。高いのはとても買えないが、ここ限定のブレンドウィスキーをお土産とした。
さていよいよ出羽屋へ向かう。いつものように入口の囲炉裏には炭が熾きていて、鉄瓶の口からは湯気が漂い出ている。淹れてくださったお茶を頂き、部屋で荷物を整理してお風呂へ。ややぬるめの湯にとっぷりと浸かって身体をほぐし、夕食の膳の前に座る。
まずは前菜、きのこの見本プレート。十種類以上のきのこが前菜9品に使われているそう。どれもがそれぞれの風味を持ち、甲乙つけがたい。もったいなくてちびちびつまんでいるうちに最初の日本酒が空になった。
次はゴマ豆腐。甘くコクのある豆腐とたれが、辛口日本酒で鋭敏になった舌をリセットしてくれる。
子持ち鮎の西京焼き山椒風味。口に含めば西京味噌のほのかな甘みが舌に馴染み、山椒の香りが鼻に抜ける。たっぷり入った卵も珍しい一品だ。
松茸の茶わん蒸し柚子あんかけ。最初柚子の香りを感じるが、あんの下からは松茸の香り。これは少し好みが分かれるかも。当方は柚子は不要で、松茸だけで十分美味しいと思った。
さらに香りの高い揚げ物、香茸と鱒茸のフライ粉チーズ掛け。香茸も鱒茸も歯応えあってボリュームある一品。すぐ前が柚子や松茸の香りを楽しむ料理だったので、その余韻の残るうちにチーズの香りでは、合わせる酒に悩んでしまう。
食事はきのこ蕎麦。5-6種類のきのこと鶏肉が入った汁に蕎麦をつけて、あるいは一緒に煮て食べる。材料はきのこと鶏肉と醤油だけとのこと、蕎麦が何枚でも食べられそう。日本酒もくいくい進む。
今日の昼も鶏肉蕎麦だったが夜の蕎麦もまた旨し。前品が普通の天ぷらだったら、☆☆☆☆☆のディナーだった(デザートのかぼちゃのプリンは腹パンでキャンセル)。
翌朝の食事も、やはり地場物中心の和定食。
羽釜炊きの新米コシヒカリがつややかで素晴らしい。まさに銀シャリ。3杯もお代わりしてしまい、お昼はスタバのコーヒーだけになってしまった。
来るたびに素晴らしい料理でもてなしてくださる出羽屋。夏はジュンサイやイワナが美味しいとのことだったので、来年7月の予約をお願いして宿を出た。
きのこも山菜も、先人がいろいろ苦労されて美味しく食べられる処理法や調理法が確立されたはず。金銭的に豊かではなく、食べるものも限られていたであろう時代と場所だからこそ育まれた文化。それを受け継ぎさらに発展させようとしていらっしゃるこの宿の主人(実際いろいろ受賞していらっしゃる)、そしてそれを頂く我々。そういう流れを感じることのできる山形の旅だ。
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